『サイレント・アース』

Dr Strangelove

(Photo by Columbia Pictures/Archive Photos/Getty Images)
 

チェルノブイリ原発事故から4年後の1990年、牛肉の缶詰が援助物資としてザンビア共和国に届きました。50万ドル相当といいます。しかし国立科学技術試験所で検査したところ、放射能に汚染されていることが分かりました。ザンビア当局は、それら缶詰を首都ルサカから50キロ離れたブッシュに穴を掘り、投棄しました。コンクリートで分厚い蓋をしておいたのですが、付近の住民がそれを掘り起こし、中身を食べてしまいました。軍の非常食だと思い込み、横取りしてしまったようです。それほど人々は飢えに苦しんでいました。それだけでなく、一部の缶詰はルサカに逆戻りしてしまい、売りさばかれていました。ヨーロッパが抱え込んだ放射能汚染食品を援助物資に紛れ込ませ、現地の人々に消費させようとする、心無い悪質な事例です*。恐らくザンビア以外の国々にも「援助物資」は送り込まれ、その過程で、誰かが多額の利益を得たことでしょう。
*佐藤良彦『住んでみたザンビア 獣医師のアフリカ不思議体験記』、pp.37~38「放射能を食らう」を参照、サイマル出版会、1993年。

『サイレント・アース』

日産化学のホームページによると、2002年に〈ラウンドアップマックスロード〉の日本国内に於ける独占的販売権をモンサント社から取得した(注1)とあります。「ほとんどの雑草を枯らし、しかも人畜毒性が低く土壌・環境中に残らない特長を持ち、世界中で愛用されている除草剤です。農業をはじめ、非農耕地、家庭などさまざまな場面で使用されています」

イギリスサセックス大学の生物学教授デイヴ・グールソンは、〈ラウンドアップ〉という商品名で販売された除草剤グリホサートについて、「いま考えると悔しいのだが、私はかつてこの除草剤を自宅の庭で大量に使ったことがある。野生生物には無害であり、環境中ですぐに分解されるというメーカーの言葉を信じていたのだ」(デイヴ・グールソン『サイレント・アース 昆虫たちの「沈黙の春」』p.159、藤原多伽夫訳、NHK出版、2022年)。

引用を続けます。「グリホサートが以前考えられていたよりもはるかに残留性が高く、土壌には数カ月、池の堆積物には一年以上残ることから、私たちがグリホサートに日常的にさらされているのは明らかだ」(p.166)。加工後の食品からも検出されるのですが、収穫直前の小麦への散布*1も汚染が増す原因です。パンやビスケット、朝食用シリアルといった穀物食品に顕著です。「たとえばアメリカでは、日常的に食べられる食品のなかでもクエーカーオーツやネイチャーバレーのグラノーラ・バー、チェリオスのシリアルから数百ppb(*2)の濃度のグリホサートが検出されてきた。濃度はなぜか子ども向けの多くの食品のほうが高い傾向があるため、アメリカの環境保護庁(EPA)の推計によると、1~2歳の子どもは『大きなリスクはない』とされる水準を超える濃度を摂取している可能性が高いという。持って回った言い方ではあるが、子どもたちにリスクがあると認めているのだろう」(pp.166~167)。ドイツでの研究によると、2000人から提供された尿を検査したところ、99パーセント以上からグリホサートが検出されました*3。しかも、子どもの濃度の方が大人よりも高かったのです(p.167)。
1)プレハーベスト農業と呼ばれる方法。小麦や大麦を収穫前に枯らし、作業の手間を省きます。やはり収穫物にグリホサートが浸透し、残留します。特に、秋頃に収穫する小麦にはグリホサートの残留度合いが高く、日本が北米やカナダから輸入している8割以上がそうした小麦です(山田正彦『子どもを壊す食の闇』pp.19~20、河出新書、2023年)。また、グリホサートに耐性を持つ遺伝子組み換え作物というものがあります。大豆、トウモロコシ、ワタ、西洋なたねといった作物が、遺伝子組み換え技術により耐性を得ており、農家はそれらの種子を、グリホサートを主成分とする除草剤〈ラウンドアップ〉とセットで購入します。モンサント社は1990年代後半から、その様にしてシェアを拡大してきました。
日本国内で流通している国産の大豆は7%に過ぎず、これ以外はアメリカ、ブラジル、カナダからの輸入です。そのほとんどが遺伝子組み換え作物です(同書pp.20~22)。人体や生態系への安全性に懸念を残したまま、遺伝子組み換え作物やゲノム編集作物は既に流通しています。
2)ppbは10億分の1を示します。縦20m、横50m、深さ1mのプール中1mlの水。あるいは、東京-下関間(約1000㎞)のうちの1mm。更には32年間のうちの1秒(JCPA農薬工業会のホームページを参照)。
3)山田正彦さんは国会議員だった頃、「日本の種子(たね)を守る会」協力の下、国会議員23名を含む計29人から毛髪の提供を受け、フランスの研究所に検査を依頼したことがあります。その結果、19人の毛髪からグリホサートが検出されました。つまり、体内蓄積が起きているのです。しかしかねてからモンサント社は、「体内に入ったグリホサートはすみやかに排出される」と主張しています(『子どもを壊す食の闇』pp.84~85)。

2015年3月、世界保健機構の国際がん研究機関(IARC)は、グリホサートに発がん性を認めました*。ピアレヴュー(査読)を受けた研究論文に基づく結論で、それらはグリホサートが遺伝毒性(遺伝子を傷付け、がんを引き起こす)であることを示す強力な証拠であるとしています。また〈ラウンドアップ〉などは、除草効果を高める為、有効成分であるグリホサートのみならず、様々な化学物質(界面活性剤など)を調合しています。純粋なグリホサートに比べ毒性が強く、数百倍にまで達することもあります。これが農家向けに販売されているのです(『サイレント・アース』pp.170~171)。
*グリホサートをグループ2A「ヒトに対しておそらく発がん性がある」に分類。この発表を契機として、世界各地でモンサント社を相手取った訴訟が起き、また、グリホサートを主成分とする除草剤の使用禁止、あるいは規制が進んでいます。しかし日本政府は、例によって植民地根性を発揮しました。2年後の2017年12月25日、厚生労働省は輸入作物に於けるグリホサートの残留基準値を大幅に緩めたのです(『子どもを壊す食の闇』p.18)。国内での販売と使用も野放しの状態です(同書p.77)。世界各地で使用中止と規制が進んでいるグリホサートやネオニコチノイド系農薬は、規制基準を緩めた日本で販路を拡大しようとしています(同書p.127)。「世界の流れは変わりました。EUではあと7年でこれまでのケミカル農業からすべての農地の25%を有機栽培にします。アメリカも目覚ましいスピードで有機栽培に転換しています。この10年で、世界全体で遺伝子組み換え農産物は頭打ちになり、有機栽培が伸びているのです」(同書から引用、p.11)。海外諸国から締め出された毒物は、この国に流れ込んできます(注2)。何もかも唯々諾々と従ってしまう日本政府は、人としてのプライドを失ってしまったかのようです。この国に住む人々の生命や健康を考慮できないのであれば、最早、私たちの政府ではありません。

国際がん研究機関(IARC)がグリホサートの発がん性を指摘した8カ月後(2015年11月)、欧州食品安全機関(EFSA)は、正反対の報告を出しました。更に翌年の2016年、アメリカ環境保護庁(EPA)もまた、グリホサートの人間に対する発がん性は無いとしました。しかしEPAが検証した論文には、モンサント社から提供されたものが多く含まれていたのです。グリホサートの遺伝毒性に関する科学論文は104本ですが、半数の52本はモンサント社由来です。その52本の内、遺伝毒性を突き止めているものは1本だけです。残りの52本はピュアレヴューを受けた公開済みの論文であり、その内の35本が遺伝毒性を確認しています(『サイレント・アース』pp.168~169)。しかしながら、過半数の論文が人間に対する遺伝毒性を否定していることから、EPAはそのように結論付けるしかなかったのです。加えてEPAは、純粋なグリホサートの評価しか行っていません。実際に農家で使用され、野生生物と人間が晒されているのは、毒性の強いグリホサート系除草剤なのです。

グリホサートに発がん性無しとした欧州食品安全機関(EFSA)の評価にも、恐らく同様のことが起きたのでしょう。『サイレント・アース』の頁を遡るなら、グールソン教授の見解を見出すことができます。グールソン教授らによるネオニコチノイドの毒性に関する研究論文が、欧州議会を動かしたという件です。以下一旦、ネオニコチノイドのエピソードへと移ります。

殺虫剤ネオニコチノイドは、昆虫の脳を攻撃する神経毒です。浸透性農薬と呼ばれ、植物の細胞全体に広がり、防虫の働きをします。有効成分は花粉や蜜にも及びますので、訪れたミツバチなどの益虫もまた曝露します。グールソン教授は、マルハナバチを用いた実験を行い、新たに誕生する女王蜂が減り、それに伴いコロニーも減少することを確認しました。同じ頃フランスでは、ミツバチがナビゲーション能力を失い、自分の巣に戻ることができなくなる現象が調査されていました。そのフランスの研究論文と、グールソン教授らの研究論文が科学雑誌『サイエンス』(2012年)に同時掲載されました。「オンラインには私個人の科学者としての信用を傷つけようとする中傷記事が掲載され、私を『御用学者』呼ばわりして、どんなテーマでも助成金を受け取ってそのテーマを支持する証拠をすすんで捏造すると書かれた(私たちの研究では実際どこからも助成金を受けていないのだが)」(『サイレント・アース』から引用、p.124)。

一方で欧州議会は、グールソン教授らの研究結果を重視しました。欧州議会の依頼を受け、欧州食品安全機関(EFSA)の科学者たちは、益虫に及ぼすネオニコチノイドの影響を評価する作業に取り掛かりました。一年を費やしてあらゆる証拠*1を検証した結果、ネオニコチノイドの使用により、ミツバチなどの昆虫に深刻なリスクが生じていると結論しました(2013年)。それは欧州に於いて、虫媒受粉の作物に対するネオニコチノイドの使用を禁止する端緒となったのです*2。
1)哺乳類に対するネオニコチノイドの影響に関する論文も検証されました。その中には脳神経科学を専門とする医学博士・木村-黒田純子さんの論文も含まれています。それらを踏まえて欧州食品安全機関は、「ネオニコチノイドにはヒトへの発達神経毒性の可能性があるので、一日摂取許容量などの基準値を下げるよう勧告を出しました」(木村-黒田純子『地球を脅かす化学物質』p.139、海鳴社、2018年)。
2)EUでは2018年から、ネオニコチノイド系農薬の屋外使用が禁止されました。日本は、カメムシ駆除目的の空中散布を続けています。更に、農産物の残留基準値を大幅に緩和し、別のネオニコチノイド系農薬を新たに承認さえしました(『子どもを壊す食の闇』p.10、pp.27~28、p.30)。因みに、ネオニコチノイドの散布によって、カメムシの天敵昆虫(カマキリや寄生蜂)が激減した上、ネオニコチノイドに耐性を持つカメムシが大量発生しました。また、松枯れの原因を、線虫と線虫を松に持ち込むマツノマダラカミキリにあるとし、神経毒である有機リン系殺虫剤(「環境ホルモン」=内分泌かく乱化学物質)とネオニコチノイド系(「環境ホルモン」の疑いあり)を空中散布しています。しかも全く効果が見られません。EUではこの空中散布も全面禁止です(『地球を脅かす化学物質』p.143、p.157)。

欧州食品安全機関(EFSA)に於ける惨敗は、ネオニコチノイド製造企業にとって苦い経験だったはずです。しかし教訓も得ることができ、今後はどうすればよいのか、すぐに察しが付いたことでしょう。グリホサートに話題を戻します。毒性評価は主に、数多の研究論文の検証に依ります。農薬業界由来の研究論文が多数流れ込み、しかもそれらがグリホサートの発がん性を否定、あるいは可能性の低さを傍証するものであったとしたら、検証機関としてはそれらを反映した報告を出さざるを得ません。グリホサートの毒物評価が行われる段に至り、製造会社はそのトリックを実行したのではないか、グールソン教授はそうした疑惑を仄めかします。

OECD(経済協力開発機構)加盟国の中で、日本は農薬の使用量が最も多い国です。OECDから勧告を受けるほどです。アメリカ小児科学会が、「農薬曝露は子どものがんを増やし、脳の発達に悪影響を及ぼす」と世界に警告を発しても(2012年)、日本政府は我関せずの体です。農薬の毒性試験に於いて、発達神経毒性を調べようとしません(『地球を脅かす化学物質』p.155)。〈ラウンドアップ〉は日本では、1980年に農薬登録され、以降最も多く使用されてきました(『子どもを壊す食の闇』p.15)。〈ラウンドアップ〉には発がん性が認められるとして世界49か国が禁止と規制の措置を講じても尚、日本だけが野放しの状態です(同書p.10)。

疑わしきは罰せずとは異なり、安全性に疑いがある医薬品や食品、農薬を認可してよいはずがありません。予防原則が優先されるべきです。長々と議論が続く間に、被害が拡がってしまうかも知れないからです。例によって、因果関係が不明などと言いながら逃げるのでしょうが。私は次の研究報告だけでも、グリホサートの使用許可を取り消すのに十分な根拠となり得ると考えます。『子どもを壊す食の闇』の中で、妊娠中のラットに、無毒性量の更に半分の量のグリホサートを与え、継世代への影響を調べた研究が紹介されています。親や子世代への影響はほぼ無かったのですが、孫世代、さらにひ孫世代に、腫瘍や生殖器の異常など多様な障害が見られました。二つ以上の疾患が重なるラットや、出産異常も起こりました(同書pp.77~78)。また〈ラウンドアップ〉や、その主成分であるグリホサートを摂取したラットに、腸内細菌のバランスの乱れが観察されました。「腸内細菌は、人の最大の免疫系である腸管免疫を正常に機能させる役割を果たしており、このバランスが乱れることで脳や精神にも影響が及び、さまざまな食物アレルギーを誘発します」(同書から引用、p.80)。木村-黒田純子博士は、長年、発達障害の研究を重ねてきました。博士によると「2~3歳を過ぎてから急に自閉症の症状が出る子どもは消化器障害を伴うことが多く、腸内環境を改善すると症状が改善するという報告も増えているそうです」(同書から引用、p.80)。

農薬や有機フッ素化合物(PFAS)といった種々様々な化学物質を、私たちは知らぬ間に、長年に渡り体内に取り込んできました。昆虫や植物のように、人間が耐性を得ることはありません。化学物質過敏症(Chemical sensitivity:CS)、あるいは化学物質ばく露症候群は、生体の悲鳴であり抵抗反応だと考えます。これ以上のばく露を回避すべく、激烈な抵抗を試みているのです。この道理に呼応して、文明に蔓延する毒物を排除すべきなのですが、もしそれを怠るのなら、私たちは自分たちが作り出した化学物質によって、徐々に、そして静かに滅ぼされてゆくことでしょう。

最後は再び『サイレント・アース』のグールソン教授です。「私に関していうと、自宅の庭の物置にはグリホサートの入ったボトルが一本ある。たぶん八年ぐらい前に買ったもので、IARCの論文が発表されて以降、ここ四年は触ってもいない。今後、農薬を買うことはないだろう。農薬について知れば知るほど、その安全性に対する懐疑心が強くなった。グリホサートについては何が真実なのか確信はないのだが、使わずにそのままにしておくのがいちばん安全だというのはすぐにわかる」(pp.174~175)。

注1)日産化学は〈ラウンドアップマックスロード〉の日本国内に於ける独占的販売権をモンサント社*から取得しています。また同社は、1980年に〈ラウンドアップ〉を農薬登録しています(農林水産省の農薬登録情報提供システムを参照)。その初代〈ランドアップ〉についてですが、有効成分「グリホサートイソプロピルアミン塩」(一般名)は1991年に特許が切れています。その為、多くのジェネリック製品が出回っています。住友化学園芸〈草退治〉、レインボー薬品〈ネコソギ〉、大成農材〈サンフーロン〉などがそうです。因みに、日産化学〈ラウンドアップマックスロード〉の有効成分もグリホサート系ですが、初代〈ラウンドアップ〉と比べるのなら勿論差別化してあり、散布した際の効果に違いがあるそうです。
*モンサント社は2018年にドイツの企業バイエル社に買収されました。当時、カリフォルニア州で、ドウェイン・ジョンソン対モンサント社の裁判が行われていました。ジョンソンさんは学校の運動場の整備を請け負っていましたが、その作業時にグリホサートを使い続けていました。その結果、非ホジキンリンパ腫(悪性リンパ腫)を患ったとしてモンサント社を訴えていました。2018年8月、陪審員は全員一致でジョンソンさんを支持する評決を下し、モンサント社に対し補償と懲罰的損害賠償が命じられました。その煽りで、バイエル社の株式時価総額が約400億ユーロも下がりました(『サイレント・アース』p.174)。エリザベス・ンポフ(国際小規模農家運動「ビア・カンペシーナ」のメンバー)は「グリホサート裁判で敗けたニュースが出てバイエル社の株価が急落した時、私たちは歓声を上げたんです。遺伝子組み換え農業はもう終わりだ、とね。でもそれは間違いでした。遺伝子組み換えも工業型農業も大量生産も、下火になんかなっていなかった。再び巻き返すきっかけを待っていたんです」(堤未果『ルポ 食が壊れる』から引用、p.97、文春新書、2022年)。

注2)日本のいわゆる「種子法」は、2018年に廃止されました。標的は日本の主食です。従来まで、主食である米、麦、大豆の種子は国と地方自治体が管理していました。公共機関が安定生産を担っていたのです。①しかし「種子法」廃止に伴い、多国籍企業の参入が可能となり、主食の主権を譲り渡す道を開いてしまいました。
②これは①に付随します。「農業競争力強化支援法」(2017年成立)が動き、日本の公共機関が研究・開発してきた優良品種(特に米を意味するようです)に関する知的財産権を、多国籍企業に差し出さなくてはなりません。日本の風土に適した作物を研究する手間と費用が省けるので、多国籍企業にとっては濡れ手で粟なのです。
③更に種苗法を改めます(2022年4月施行)。主食以外の農産物も標的になります。農家が自ら育てた作物であっても、その種子を使うことが出来なくなり、毎年その都度、多国籍企業から購入しなくてはなりません。農家の経済的負担が増します。
一連の法律の地ならしにより、多国籍企業による日本の食料生産の支配が始まったと考えもよさそうです。彼らは除草剤グリホサート*1と、これに耐性のある作物の種子をセットで売り込んできます。除草剤に対し耐性を持たせる為に、遺伝子組み換え技術が用いられます。手を加えた種子は、「開発者」である多国籍企業が特許権を主張できるのです。
とどのつまり、日本の農家は衰退し、農地は買い漁られ、多国籍企業の農耕技術者や人工知能が作物を育てるようになるのでしょう。国内の食料自給率を、脅しが効く程度に保っておけば、日本政府を思うがまま操ることができます。また彼らは、品種改良研究所を設け、あるいは大学の施設内で、遺伝子組み換えやゲノム編集の危険を伴う実験をやってしまうかも知れません。しかしそうなる前に、対抗する市民と地方自治体が力を増し、強力な歯止めとなることを望みます*2。
1)グリホサートに隠れてしまいがちですが、同類の除草剤にグルホシネートがあり、これもまた遺伝子組み換え作物とセットで販売されます。
2)『子どもを壊す食の闇』を参照p.98

種子の生産はバイエル社(モンサント社を買収)、コルテバ社(ダウデュポン社から分離)、シンジェンタ(中国化工集団=ケムチャイナが買収)の三社が7割を牛耳っています。また農薬と化学肥料に於いても、世界市場の7割を占有しています(『子どもを壊す食の闇』p.96)。

つづく
次回予告/ 化学産業の成長は戦争と共にありました。モンサント社は、太平洋戦争に於いては毒ガスを、ベトナム戦争では枯葉剤を供給しました。アウシュビッツ強制収容所のガス室で使用されたチクロンBを開発・製造したのは、IG(イーゲー)ファルベンという化学コンツェルンです。彼らは毒ガスの提供だけではなく、アウシュビッツに自社の合成ゴム工場を持ち、ユダヤ人に労働を強いていました。文字通り、掛け値なしに、死ぬまで働かせたのです。IGファルベンは戦後に解体されましたが、参加企業であるBASF(バディッシュ・アリニン・ソーダ製造会社)、ヘキスト、バイエルの三社は生き残り、1990年に合同出資の新会社を設立しています(広瀬隆『赤い楯 ロスチャイルドの謎』(Ⅳ)P.1513、集英社文庫、1996年を参照)。

石橋宗明