おーいでてこい 能登半島大地震編 part2

 

 

 

 

 

Photo by Digital Globe via Getty Images

新潟から神戸にかけて「新潟−神戸ひずみ集中帯」と呼ばれる地下の歪みが存在します。それはフォッサマグナを跨ぐようにして「日本海東縁ひずみ集中帯」へと繋がっており、これは北海道沖へと伸びています。古来、その一帯では多くの大地震が発生しています。

近年では、2019年山形県沖地震(M6.7)、2018年大阪府北部地震(M6.1)、2014年と2011年に長野県でM6.7、東京電力の柏崎刈羽原発を破壊した新潟県中越沖地震(2007年/M6.8)、新潟県中越地震(2004年/M6.8)、阪神大震災(1995年/M7.3)、北海道南西沖地震(1993年/ M7.8)、日本海中部地震(1983年/ M7.7)などが挙げられます。

石川県能登半島もまた、ひずみ集中帯の影響を受けています。集中帯には明確な境界線など無く、数百キロメートルもの半流動体が、ぐにゃぐにゃと蠢いている様を想像します。能登半島では2021年から毎年、大きな地震が続いていました。2024年の元日に起きた能登半島大地震は、これまでの最大であるM7.6を観測し、熊本大地震や阪神大震災を上回りました。複数の未知の活断層が、連続して動いたのではないかと言われています。

北陸電力の志賀原発が建っている志賀町を震度7の大きな揺れが襲いました。1号機原子炉建屋地下では震度5強だったと電力会社は発表しています。しかし、1,2号機ともに設計上想定していた加速度を超えています。どちらとも定期検査中で、長期間停止させていたのが不幸中の幸いでした。

原子力発電所は、三井ホームや住友林業の建てる家よりも遥かに地震に弱い。今回の大地震で、至る所に大小の破損が生じたことでしょう。1,2号機とも、このまま廃炉にすべきです。見た目には異常が無くても、根っ子のように張り巡らされた配管や配電が破損を受けている可能性が十分にあるのです。公表されているものだけを事例とするなら、1,2号機の変圧器の配管が壊れ、外部電源を失いそうになったことが筆頭に来ます。使用済み核燃料を保管していたプールの水が波立ち飛散しましたが、加えて、冷却ポンプが40分間停止したのです。長期に渡って冷やしていた使用済み核燃料でしたので、水温の上昇には至らなかったようです。

原発が建ち並ぶ福井県若狭湾沿岸にも、「新潟−神戸ひずみ集中帯」のぐにゃぐにゃが横たわっています。現在、関西電力が5機の原発を再稼働させています。高浜原発1~3号機(1,2号機は老朽化し、3号機はMOX燃料⦅プルトニウムとウランの混合酸化物燃料⦆を使用)、そして大飯原発3,4号機です。阪神大震災以降、日本列島は地震活動期に入っています。大事故へと至る確率は飛躍的に高まっており、非常に危険です。若狭湾の原発に限らず、すべての原発から核燃料棒を抜き取り、使用済み燃料棒と共に、可能な限り安全な場所へ移し、厳重保管するのが筋道の立った措置です。一定期間プールで冷却した使用済み核燃料は、ドライキャスクと呼ばれる金属容器に入れて保管が可能です。福井県若狭湾の分だけでも、関西電力大阪本店の敷地に設備を設け、責任を持って管理するべきです。

兵庫県による放射性物質拡散予測*では、「安定ヨウ素剤の服用を必要とする50ミリシーベルト超の地域は、高浜原発事故で計32市町、大飯原発事故で計38市町に広がった。いずれも南あわじ市が含まれる。福井県や京都府の一部でも50ミリシーベルトを超えた」(『朝日新聞』2014年4月25日)。7日間の積算で50ミリシーベルト超という基準にしたのは、国際原子力機関(IAEA)の指針を参考にした為です。IAEAは国連の原子力推進機関ですが、彼らの控え目な指針に従っても尚、150キロメートルを超える範囲に、安定ヨウ素剤を必要とする濃度のヨウ素131の拡散が懸念されるのです。因みにWHO(世界保健機関)は、若年者について、10ミリシーベルト以上の脅威があれば、安定ヨウ素剤の服用が望ましいとしています。
*「放射性物質拡散シミュレーション(県内全域)の結果について」平成26年(2014年)4月. 兵庫県企画県民部防災企画局防災計画課広域企画室.

兵庫県篠山市は高浜原発(福井県)から約45キロ離れていますが、甲状腺等価線量が100.1ミリシーベルトと予測され、IAEAが定める安定ヨウ素剤の服用基準(50ミリシーベルト)を上回っています。そこで篠山市は、関西電力高浜原子力発電所の再稼働(2016年1月29日)直後から、希望する市民に安定ヨウ素剤(ヨウ化カリウム)の配布を始めました。篠山市政の判断によります。非常に懸命な判断です。放射性ヨウ素131は甲状腺に蓄積し、小児甲状腺がんを引き起こします。甲状腺がヨウ素131を取り込んでしまう前に、無害な安定ヨウ素剤で満たしておく必要があるのです。そうするならば、ヨウ素131の侵入を防ぐことが可能です。タイミングを逃したくはないので(特に18才未満の子どもたち)、放射性物質の拡散が明らかになった時点で服用を始めるとよいでしょう。各家庭、学校・保育園・幼稚園、福祉施設、ホテルや旅館などの宿泊施設にも安定ヨウ素剤を配備しておくべきです。

篠山市の方針を尊重しつつも、兵庫県としては「県地域防災計画(原子力等防災計画)を修正、安定ヨウ素剤の備蓄は行わないことにした」(2016年5月9日 兵庫県発表)。政府は自治体に対し、5キロ圏内では住民への事前配布を、30キロ圏内では備蓄を求めていますが、兵庫県は30キロ圏外なので、その通達に従ったのです。

市名変更で丹波篠山市となっても、市民への安定ヨウ素剤の配布は継続して行っています。しかし兵庫県は現在も方針を変えておらず、30キロ圏外は安定ヨウ素剤の備蓄の必要はなしとする政府通達に従っています。役所としては、個々人で安定ヨウ素剤を入手するのは困難としか言いようがないのだと思いますが、物が分かる良心的な医師であれば、処方箋を出してくれます。薬局も手間を惜しまず取り寄せてくれます。実際に私は複数回、国内製薬会社の安定ヨウ素剤を入手しています。但し、保険は適用されません。

福井県の若狭湾の原発が重大事故を起こした場合、兵庫県は避難先となっています。しかし安定ヨウ素剤の備蓄を行っていないので、避難してきた人々に手渡すことができません。京都を例にとってみますと、原発から半径5キロメートル圏内では事前配布されていますが、30キロメートル圏内では緊急時配布、つまり原発事故が発生してから、小中学校、公民館などで渡されます。その後の避難となってしまうので、時間の浪費はかなりのものです。100万人が避難するとして、車道の渋滞をも考え合わせると、まったく現実味を欠きます。安定ヨウ素剤を受け取らず、まず避難する人々が多いかも知れません。避難先でも入手できるようにしておくのが望ましいと考えます。また、原発から30キロメートル圏外の人々はどうかというと、原発事故発生後、やはり政府からの配布を待つしかないのです。それならば対象範囲を150キロメートルに拡げ、18歳未満の青少年のいる家庭や学校、関連施設に常備しておくのが得策です。理の当然である備えさえもおろそかにして、よく原発再稼働など始めたものだと大いに呆れます。相変わらず、事故は起こらないという前提なのでしょう。福島原発事故の苦い経験と教訓が足蹴にされたのです。青少年はそうした大人たちに抗わなくてはなりません、権利があるのです。

石橋宗明